So-net無料ブログ作成

小説・本 ブログトップ

天地明察 [小説・本]

◎改めて、保科正之は偉大だと思う

天地明察(上) (角川文庫)

天地明察(上) (角川文庫)

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/05/18
  • メディア: 文庫

天地明察(下) (角川文庫)

天地明察(下) (角川文庫)

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/05/18
  • メディア: 文庫

読後感の爽やかさ!
歴史物であり、数学と天文学という専門的な分野を描きながら、借り物の専門用語を並べずに読者にその世界の内実を解りやすく説明しているのが凄い。
たまにくだけた「くそ重い刀」などの表現をするが、それが時代小説専門小説家とちょっと違う印象を与えている。ちょっと違和感も感じるが、そんなに嫌じゃない。

挫折を味わった男のサクセスストーリーでもあるし、何十年もの暦をめぐる人々の壮大なドラマでもあり、暦対決というエンターテイメント性もある。

思うに暦というのは、古代文明からずっと、人界を治める手段の最たるものですよね。
誰もが知識をもち解明できるものではないから、人々を畏怖させ崇敬させる最たるものでもある。

関孝和との関係が興奮しますね。
互いに顔を知らないまま、何十年も算学問題のやり取りで会話している。
そこにある崇敬とある種の情愛が育まれる様が面白い。
そういった人間に出会えた事が羨ましくもある。

私などblogで間違った事を書いただけで顔から火が出るほど恥ずかしいのに、算学勝負として間違った設問を名前を堂々と出して張り出してしまった状況や、暦対決で月蝕を外してしまった状況、想像するにあまりあります。

えんとの関係も甘酸っぱく、人の縁(えにし)の不思議を感じさせます。

渋川晴海恥ずかしながら知りませんでした。
暦改編の裏にこんな壮大なドラマがあったなんて。

暦は平安時代からずっと、陰陽宿が形を変えて脈々と引き継いでいると思っていたので、まさか囲碁打ちで算学の達人が関わっていると知らず、本当に驚きました。

というか、またしても保科正之の時代なのだなぁ。
対比して描かれる山鹿素行の暦に対する暗愚ぶりが、私にとっては斬新だった。
忠臣蔵や幕末になると彼の名前がたびたび登場し、武士道を語る男たちの大義名分として彼の思想が引き合いに出され、武士道の賢者として謳われる事が多いからだ。全く別の視点から捉えた彼の姿は、人間の多面性をはっと気がつかされる。

時間がずれる事を察知し、そのずれを修正できる人がいるのに、武士の立場をわきまえなければ、というただそれだけで、口出ししてはならないというのは、今では考えられない事。

水戸の尊王思想もそうだけど、尊王思想というのは、私の思い描く理想の状態とはどうも違うらしい。天皇家に尊敬を抱きつつ、足りないところを補ってあげるというのが何がいけないのか。

幕府が公家たちから政権を奪ってしまったから、更に彼らの領分に手出しすると彼らの立つ瀬がなくなり天皇を蔑ろにしてしまう、という危惧を持つのはわかる。
そこを重々わかっているからこそ根回しを慎重に行っていたのに、そこを慮ることもなく、歩み寄ろうともせず、ただひたすら権力を翳すしか能がない公家たちの政治手腕の愚かさにも呆れてしまう。

人間って言うのは、とても小さなこだわりにしがみついて、自分の生きる意味を保とうとしているのだな・・・としみじみ思ってしまった。

もし、渋川晴海が挫折したままだったら、その後同等の知識と知恵と情熱を持って改暦に取り組む若者がいつ現れただろうか。
怜悧な若者の才能を無駄に潰されてしまう可能性があったという、この恐怖。

私を含め、全く庶民たちはどの時代も、このような知られざる先達の労苦を知らず、のほほんと暮らしているのだなぁと、頭が下がる思いです。

人間社会は、顔も知らないどこの誰かが作ってくれた食物を食べ、加工品を使い、着物を選び、そうやって支えあっているのだなと、感謝の念が自然に湧き出る小説でした。
更に森羅万象、知らない間に命を支えている湧き水や湖や生き物たちなど、渺漠の世界に思いを馳せるわけだけれど、暦というのは、そういった自然への崇敬さえ奮い立たせるものなのだと、ぽつんと地上で蠢いている自分を、天から見下ろしている気分になりました。

いやはや、清清しく凛とした、すばらしい小説です。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

レンズが撮らえた幕末の日本 [小説・本]

◎松平容保、兄弟の数奇な運命

 
レンズが撮らえた幕末の日本

レンズが撮らえた幕末の日本

  • 作者: 岩下 哲典
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2011/04
  • メディア: 単行本
幕末に外国へ渡航した留学生武士たちを中心にまとめた本。
市井の写真は少しだけ。
いやしかし、留学生たちの意気軒昂とした表情ったら!
決意、信念、情熱、期待、色々入り交じった顔つきは、なかなか今の日本人では見られないかもしれない。
特に薩摩武士の目の輝きがすごいんですけど。
なんだか東北より西南の武士の方が、体つきも背丈も大きい。
やっぱり食べている物が違うからか?
…食べてたっていうし。
名の知られていないが近代日本に貢献した人物一覧と捉えても面白い。
とにかく一見の価値あり!

nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

徳川慶喜家にようこそ [小説・本]

◎曾孫も少し変わった人です

徳川慶喜家にようこそ―わが家に伝わる愛すべき「最後の将軍」の横顔 (文春文庫)

徳川慶喜家にようこそ―わが家に伝わる愛すべき「最後の将軍」の横顔 (文春文庫)

  • 作者: 徳川 慶朝
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/09
  • メディア: 文庫
11-04-07 (1).jpg
11-04-07 (2).jpg
↑右上は慶朝さんを模したイラスト

11-04-07.jpg
↑私はミルク+砂糖を入れてしまいました

雨の日に、ネットで注文した「徳川将軍コーヒー」を飲みながら、【徳川慶喜家にようこそ】を読む。
慶喜が愛したブレンドを飲みながら慶喜の本を読むなんて、なかなか乙ではないか。
コーヒーは『サザコーヒー』で購入可能。とても濃い味、深い焙煎で香りがとても良い。ストレート好きにはたまらんでしょう。

徳川慶喜の直系の慶朝(よしとも)さんは会社勤めのメラマンだったがリストラされてしまい今はフリーらしい。カメラマン、というのが、慶喜を彷彿とさせますねぇ[ぴかぴか(新しい)]
なかなか面白い人のようで、「自分は先祖と違ってもてない」とか、「子供の頃早くサラリーマンになりたかった」などと書いている。

将軍の子孫だと知ると誰もが「世が世なら将軍だったんですねぇ」と言う事に閉口してしまい、「将軍なんか不自由極まりない」とばっさり斬り捨てている。慶喜も父親に「私は将軍になりたくないから絶対推薦しないでくれ」と一筆したためたらしい。
エッセイを通して伝わってくる慶朝さんの、あまり家柄や血筋に執着せずどこか冷めた感覚で世の中を見ている体(てい)が、私の中の慶喜像に似ている。
ちなみに、旧華族の子孫の集まり『霞会館』や旗本の子孫の集まり『柳営会』などにもあんまり参加しないようですw

飄々とした人だが、お勧めのデートコースのくだりを読むと食にはうるさい人のようだ。人の食事作法が気になるというから、やはり躾は厳しかったのだろう。いや、躾とも思わずそれが当たり前だったのかもしれない。

慶朝さんは結婚せず子供もいないそうで、それを知ったときすぐに「勿体無い」と思ってしまった。案の定慶朝さんは「血ばかり残してもしょうがない。絶えるものは絶える」と飄々としている。

幕末後、元徳川家臣たちが苦労して開墾した静岡の牧の原台地にも、慶喜は一度も訪れず「貴人、情を知らず」と嘆かれたそうだが、慶喜はあまりにも現実的で利発ゆえに割り切り方が早いだけだったのかもしれない。
革命の火は消そうと思っても消せない、ならどうすべきか。自分が恭順の意を示せば丸く収まる。本人にしたら何故こんな明白の理がわからぬのか、という気持ちだったかもしれない。
しかし正論だけで人の感情が収まらないのはしょうがないので、ずっと陰で誹謗中傷を受けながらも黙って生きていた慶喜は、もしかしたらその鬱憤を趣味に消化させていたのかもしれないなぁ。

話は脱線したが、慶朝さんの父・慶光さんと祖父・慶久さんの話が面白かった。
「第六天町の屋敷」と呼ばれた広大な屋敷を構えていた祖父から、戦争を経て慶朝さんの町田のマンションまでの件を読むと、時代をまざまざと感じる。
ところで慶光の母・和子さんは松平容保の孫だそうです[exclamation]
会津びいきの私としては、関係もないのになんだか嬉しくなってしまった。
縁、なんですねぇ…。その結婚は昭和13年(!)、当時の新聞の写真が掲載されていました。
世論はどんな反応だったのでしょうねぇ・・・。もう昭和だし、「ふーん」くらいの感じだったのでしょうか。

慶久さんもこれまた写真が掲載されていましたが、すっごい紳士、すごいハンサムで、しかも聡明で次期首相かとまで言われていた方ですが、体が弱く短い生涯だったそうです[もうやだ~(悲しい顔)]
あまり知られていない慶久・慶光二代の話だけでも、一読の価値ありです。
ああそれにしても子孫がいなくなると、「花押」などの細かいこぼれ話を伝える人もいなくなってしまう…。いや、歴史マニアのために子供を作れというのではないが、特段伝えるものをもたない只の家に生まれた者からすると、「生きた過去」が「ただの過去」になってしまうようで…。
子孫がいるから過去の人物にも重みを感じるんですよね。あぁ残念だ…。 [ふらふら]

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
小説・本 ブログトップ
メッセージを送る